陽が落ちるのが早くなり、慌てて早足で帰ろうとした時、家の近所で「ふんどし爺さん」を発見してしまった。
その爺さんは、ふんどし一丁で空を見上げながら「寒くなってきたもんだなぁ」っと変に感動していた。
私は見るつもりはなかったのに、ついつい、爺さんの下半身に目がいってしまった。すると爺さんの、ふんどしが緩んでしまって、袋が横からはみ出ているではないか。
「げげっ」
私はびっくりし、慌ててその場を立ち去った。
普段、あまり見られないものを見て嬉しかったというよりも、なんだかわけのわからない、深海にいるタコの頭を見てしまったという感じだった。
運よく棒の方が隠れていたからいいようなものの、もろ出しだったらえらいことであった。
ふんどし爺さんは、それからたびたび姿を現すようになった。
夕方だけではなく日中もぬーーっと立っている。さすがに寒くなってきたから着物をはおっていることもあるが、相変わらずゆるふん一丁である。
それでも見えるのは袋の方だけで棒の方はちゃんと隠れているところがにくい。
この頃は見慣れてしまって、ぎょっとすることもなくなった。
そしてそんな姿で空を仰いでいる、ふんどし爺さんは、とても幸せな人のように思えて来たのだった。