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ヤギさん犬3

ヤギさん犬3

ド派手な女子大生を見た私は「親はどうした、親は」

そういう恰好をしている子を見ると、いつも思う。「お父さん、お母さんもお嘆きのことでしょう」と同情したくなる。確かにその年頃の服装感覚は、大人とは違うものだ。私が学生の時も親に「その恰好をなんとかしろ」と言われた。

しかし私は無視していた。親は私の汚い恰好をやめろと言ったのだが、別に不潔ではなくちゃんと洗濯をしていたし、きっと臭いもふりまいてなかったはずである。私は汚いよりも露出の多い人に嫌悪感を持つタイプだから、よけい、最近の女子大生のそんな恰好を見るとブツブツと文句を言いたくなるのである。

いっそのこと、抱えている教科書やノートをバッグに入れるなりして、隠してくれれば「これから遊びに行くのね」くらいにしか感じないのだが、なまじ彼女達が原書の表紙が見えるように抱えて「一応、英文学を専攻しちゃってるの」とアピールしているところが、みじめったらしくて嫌なのだ。徹底的な遊び人をきどっていればいいのに、大学生をちらつかせる。大学の図書館から借りた本を一番目立つように抱えている。「私って、ちょっとは名の知れた大学に通っているのよ」と言いたいらしい。そんなところだけ、変に社会的な受けを狙っているところが、これまた私を、ちぇっと舌打ちさせてしまうのである。

彼女達は、まるで世の中には怖い物など何もないと言いたげに、元気のいい笑い声の合間に「まじーー」「やだーーん」という言葉を挟み込み、横に並んでだんだん近づいてきた。彼女達はスタイルもよく顔立ちもいい。若い男の子たちだって、そんな彼女達に、にっこりされたら、腰がくにゃっとするのも当然である。

性格だってちゃっかりはしているけれど、人を陥れたりはしないと思う。

あれこれ考えながら歩いていて、ふと見ると、ヤギさん犬が私の足元に寝そべっていた。派手な4人組と、まさに犬の前ですれ違おうとした瞬間、信じられない光景が繰り広げられた。

私が5年の間、あくびをする声すら聞いたことがなかった、ヤギさん犬が、突然、彼女達にむかって牙をむいて吠えかかったのである。

つづく