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嘘つき1

嘘つき1

瀬戸内寂聴が小説家になろうと決意した際、彼女の友人が「小説家は道路の真ん中で裸で横たわることが出来るくらいの覚悟が必要だ」と言ったそうだ。

物書きは基本的には多かれ少なかれ、嘘つきだと思う。大嘘をつける人は凄いけれど物書きじゃない私の場合は小さい嘘しかつけない。また本当のことを言ってるのに「嘘でしょう」と信じてもらえなかったりする。

高級車の後部座席にある肘掛をクッションと間違えて座ってしまったとか、洋式トイレの便座が上がっているのに気づかずに、すっぽりはまってしまったとか、自分の身の上に起こった出来事を話すと「それ、今、作ったでしょ」と疑われる。変な人を見かけたりした真実を話すと信じてもらえず、面白くしようとちょっとだけ尾ひれをつけた話は信じてもらえたりする。

私の場合、嘘でも本当でも人に受けると喜んでしまうのだが本当にあった面白い話を「嘘だ」と言われるととてもショックを受けてしまう。

 

私がこれまでについた嘘の中で一番大嘘だったのは小学校の低学年の時だった。

「うちのお父さんはフランス人」だった。

家にはまぎれもなく黒い髪で味噌汁を飲んでいる父親がいるというのに、同じクラスの子にそう言い切った。それも「何言ってんのよ、そんなわけないじゃん」と言い返されそうな、パキパキしたタイプは避け、どちらかと言うとぼーっとしていて、すぐに人のいうことを信用してしまう人のいい子を狙った。

しかし、どんなに人のいい子でも、どう見てもフランス人の血がまじっているとは思えない、目がまん丸で、おかっぱで平たい顔をした子にそう言われても、すぐには信じるわけにはいかないのは当然であった。

その子はじーっと私の顔を見て、首をかしげた。

「あのね」私は彼女の肩を抱き、「誰にも言っちゃいけないよ」と耳元でささやいた。彼女は目を丸くして「うん、言わない。言わないよ」と言った。

そこで私は誰にも話してない秘密を彼女に話した。

「私はね、もらわれてきたの。家にいるのは本当のお父さんとお母さんじゃないの」そう言うと彼女は「えっ」とびっくりして目を丸くした。

つづく