料理教室で完成したカレーを生徒達が食器棚から勝手に丼鉢を取り出し、そこにご飯を盛り、カレーをドバーっと一気にかけてしまったのを見て、先生は目が点になったそうだ。
先生としては主婦ばかりだし、何も言わなくても分かるだろうと思っていたのに、皆、勝手にカレー丼にしたのである。
それを見た先生は、ああ、彼女たちは家でこうやって食べているのか。
せっかく料理を習いに来ているのに、皿に盛るという意識もないのだなあと、あまりに彼女たちが物を知らないのとマナーの崩壊に頭が痛くなってきた。
「ちゃんと食器を出しておいたのよ」と言っても、みなきょとんとしている。
カレーの形状上、今から食器の変更が可能なわけもなく、衝撃を受けた先生が、一人一人の丼を見てみると、全面にカレーをかける人、半分だけかける人、中央部分を残して周りにかける人など、さまざまで「お家によってカレーのかけ方も違うのね」としか言えなかった。
丼にスプーンという組み合わせでは、マナーもへったくれもなく、ただ出来上がったカレーをかきこむだけになった。
食後、先生がきっちりと教える意味で、カレーの食器について話すと生徒たちは、「ルーを別にするなんて面倒くさい。洗い物が増えるのは嫌だ」と口々に文句を言う。
料理やマナーを学ぶ気があるとはとても思えない。
それ以来、その先生は、料理教室を続ける自信がなくなったと意気消沈しているとのことである。