Aさんは10歳のシャム猫を「この子、顔がちょっと黒くて、こそドロみたいでしょ」と言って「こそドロ」だの「お調子もん」だのと呼んでいる。
それに猫はじっと耐えているのである。
Kさんの猫が亡くなったことを知らせた直後、Aさんは猫をつかまえて「ねぇ、あんた、いつまで生きてるの!教えてってば~」と迫った。すると大人しい猫が「おわあ!」と大きな声で鳴いた。何だか、むっとしたような声の感じだった。
「ま、生きてるものだから死ぬのはしょうがないよねぇ。あなたはどうするのよ、この子が死んだら」AさんはMさんに尋ねた。
「近所の猫に殉死してもらう」
彼女は真顔で言った。もしも私が猫を飼っていて亡骸を目の前で見たら、どうしようもないことは重々わかっていながら「どうして、うちの猫だけ、こんなことに・・」と思うに違いない。
でも必ず、その日は訪れてしまう。
自分の死ぬ姿を見せなかったうちの猫は、食い意地が張っていてお喋りだったが、一番の飼い主孝行をしたのかもしれない、と思ったりしたのである。