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鼻毛Ⅱ

鼻毛Ⅱ

京都の田舎町から大阪の都会へ引っ越した彼女は、毎日、寝る前に、鼻の穴を鏡に映して、熱心に点検せざるをえなくなったらしい。

近頃は自転車で走り回った日は何となく鼻が重くなってきたような気がすると言う。家を出た朝とは違い「ズン」とした感覚があるというのだ。

「このズン、とした感覚が鼻毛が伸びたってことだと思うの」

彼女はほとんど鼻毛評論家である。

私の場合は、学生時代は幹線道路近くにある学校に通っていたから髪の毛が、すぐベタベタになった覚えはある。

だけど鼻毛に関しては全く記憶がない。

もしかしたら当時、私は平気な顔をして鼻毛を伸ばしていたのではないかと、ぞっとしたりした。

「この間なんか、鼻毛に枝毛ができてた」

これにはびっくりした。

「それじゃトリートメントしなくっちゃね」などという下らないことも言えなくなった。

「どんどん伸びてくるし、その上、一本一本が太くなってきたみたい。このままのペースで、鼻毛が太くなっていったら、そのうち鼻の穴が毛で埋まっちゃうよ」

彼女は今、本気でおびえているのだった。