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入れ歯

入れ歯

私の母は99歳

2週間前にトイレで転んで、足首の骨を「骨折」まではいかないけれど、「剥離」と医者が言っていた。手術は大変なのでギブスで固定する事に。

その頃から急激に「まだらボケ」になってきたらしく、常に「痛ーい」を繰り返し、挙句の果ては「オシッコ、うんこ」を5分間隔でナースコールを押し、介護士さんのブラックリストにデビューするハメになった。

先日も、お世話になっている施設から電話があり、「瞼の上にニキビが出来ている」と。私は「あの歳でニキビは、あり得ませんが??」と返すと「ひょっとしたら帯状疱疹かもしれないので病院を受診してあげて下さい」とのこと。

今、私は友人が生きるか死ぬかの大病で入院しており、毎日、そちらに行っているので呑気な母のボケに付き合っている暇は無い。

とは言え、母のことも心配なので昨日、様子を見に行って来た。

ベッドが危険なので(勝手に降りたりする)床に直接、布団を敷き、横たわっている母の顔を見た途端、私は???????誰???これ???

母の顔が美とか醜とかいう問題ではなく、顔の下半分が「異」だった。

まるで漫画「進撃の巨人」の巨人みたいな歯なのである。

「え??私の見間違い??」と目をそらして冷蔵庫の整理をしながら、再び母の顔を見ると、普通の顔に戻っていた。

「あれ?」進撃の巨人の歯と母の顔を見間違えるわけがないのに、もしかしたら私の幻覚???と焦っていたら、母はモグモグと口を動かしていたかと思ったら

かぽかぽっと上側の入れ歯を器用に口と舌の動きだけで、はずした。

つまり志村けんの「あいーん」とした状態のまま、はずした上の入れ歯をくわえている。それが進撃の巨人のように見えたのだ。

「あーびっくりした」歯が歯茎ごと丸出しになっていると、あんな顔になるのかと、この歳になって初めて知った。知ったからと偉くなるような問題では無いけれど、まさに人を食いそうな口元にしか見えなかった。

横目でチラチラ観察していると、かぽかぽっと入れ歯を、ずらして、しばらく、じっとくわえ、また、元に戻す。そして又、かぽかぽっがはじまる。

手を一切使わず、口を動かすだけで入れ歯を出し入れする技を一体どこで、習得したのだろうか?

母は入れ歯をくわえた自分の顔は鏡では見ていないだろうし、外では、こんな顔をする人もいないとは思うけれど、私は入れ歯に、こんな楽しみ方があったのかと心の底から、感心、感服してしまったのだ。