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紙袋

紙袋

昨年、引っ越しした時に一つだけ、押し入れの片隅にある茶色い紙袋を見るたびに気分が重くなっていた。

別にその中には過去に取った赤点のテストや断られた見合い写真が入っているわけではない。ブティックで洋服を買うと入れてくれる、店名が印刷してある袋が入っているだけである。買い物をしてすぐポイっと捨てられない綺麗な袋は、とりあえず、その紙袋に入れていたのだけれど、これが長い間捨てられなかった。

一年に一度、年末の大掃除の時に、そーっと中をのぞいてみると、たまりにたまった袋どもがぎっちり詰まってハチ切れそになっていた。

ベネトンの緑の袋、どこかのデパートの白地に緑と黒の▽模様がついた袋。シャネル小さな紙袋、どれもこれも何年も前のもので、何の使い道もないのに後生大事に溜め込んでいた。

この膨れ上がった紙袋を押し入れから引き出し、どうして捨てられないのかを冷静に考えてみた・・・。

何故これが捨てられないか?と言うと「その袋を持って街中を歩いたらちょっとかっこいいかな?」という、いやらしい根性があるからである。

ベネトンであろうが、シャネルだろうが同じ物が5枚あるとそれは、ただの袋なのに手元にたった一枚しかないと思うと、とても貴重なものになる。

これが貧乏くさくて我ながら情けない・・。

いつか使うだろうと溜め込んでいたものの、一度たりとも使うことがない。そんな機会は訪れなかった。おまけにこれを、持って歩くと、まるでボランティアでブランドの宣伝をかってでるようなものだ。

よくよく考えてみると、これらは役立たずの、ただの紙袋。

ここで躊躇していたら、いつまでたっても、この紙袋とは縁が切れない。

私は今まで大事にしまい込んでいた紙袋をパパッと紐で結び、ゴミとして捨ててしまった。それでも何の不都合もない。

今まで永い間、苦しんでいた便秘がスッキリ治ってしまった気分である。