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猫かぶり

猫かぶり

大人しそうで虫も殺さない顔をしている女の人を見ると、私はどうも、胡散臭く思ってしまう。

中学校の同級生に、まるで、お人形さんの様な可愛い顔立ちをした女の子がいた。おっとりしていて、身のこなしも私達みたいにガサツではなく、間違っても「ガハハハハ」などと笑わないタイプだった。

成績も良く真面目で学級委員をやっていたが、それがピッタリの女の子だった。

男女を問わず憧れの的で、私なんか、どうしてああいう人が出来たのだろうかと不思議に思っていつも観察していた。

ある日、給食に酢豚が出た。沢山、食べたい子は何杯もおかわりをし、嫌いな子は先生に怒られるので何とか、残さずに食べようと必死になっていた。

すると、そのお人形さんの女の子は先生に見つからないように、すっと立ち上がり、教室の後ろの隅に置いてある木製のゴミ箱の中に、酢豚を捨て始めた。

私を筆頭に、皆も息ひそめて、彼女のやることを見ていた。

まさか…あの人が・・と目を丸くしている私達の前で彼女は平然としていた。

「そんな事しちゃいけないよ!」っと一人の男の子が言うと、彼女は突然、「えーーーん」とウソ泣きがミエミエの声で机の上に突っ伏してしまった。

呆気にとられて見ていると、ウソ泣きの声は、わざとらしく大きくなり、それはまさに私達の同情を引こうとしているのが、まるわかりだった。

それから彼女の、あだなは「猫かぶり」

誰も彼女を相手にしなくなった。

たかだか、酢豚を捨てたくらいで、こんな烙印を押された彼女も可哀想だったけれど、それ以来、私は妙に大人しい女性を見ると、彼女の本性をあばいてやりたくて、うずうずしてしまうのである。