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オヤジⅢ

オヤジⅢ

「自分で自分に手をかけているか?」自問自答してみたが、とてもじゃないけれど「はい」とは言えない。

外で人と会う時はそれなりに化粧はするが、口紅などは殆ど色がつかないものを使っているので化粧をしてる!というふうには見えない。

一日、家から出ないとなると顔さえ洗わない時もある。夏場は日焼け止めを塗るが冬場は買い物も夕方からにして化粧もしないで出掛ける。きっとボロボロの顔をしているだろうが、そんなこと知ったこっちゃない。

「しょうがない、歳をとってきたんだから」首から下の体のサインだと病院に行ったりもしただろうけれど、顔だからほっといた。全くの無抵抗主義である。

サロンのお客様で小唄と三味線の師匠をされてる方は、もと芸者さんで今は置屋のおかあさんだが、化粧は落としたことがないという。寝る時もしている。お風呂に入った時に洗い流すけれど上がるとまた、化粧をする。肌に何も塗っていない時間は、ほんの何分しかないのである。それを80歳近い今まで、ずっと続けられているというのに、肌はつるつるでとても若く見える。もちろんオヤジには見えない。同じ方法は実践はしないけれど、こういう気持ちが女性を保ち続けるのだろうと思う。

一方私は、女性ホルモンが減少しつつあるというのに、それを精神面から少しでも補おうとせずに、率先して失う方向へと向かっていたのだ。

私は心を入れ替えた。中学生の柔道部員じゃないんだから、いつまでも素顔というのはやめよう。

「小太り」はすぐに修正は出来ないが、「おやじ」はすぐにでも何とかしなければならない。

本棚の奥の方にしまい込んであった口紅を出してきて、つけてみたら、オヤジはオバチャンになっていた。オヤジの女装に見えないのが何より幸いだった。

私は若い娘に戻りたいなどと野望を抱いているのではない。

オヤジから、おばちゃんに戻りたいだけだ。

もう歳だからと自分を甘やかそうとしていた私であるが事と次第によっては甘やかしすぎるのも考え物だと反省したのであった。