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初めてのワンコ

初めてのワンコ

子供達が犬を飼いたいと永いこと言っていた。

息子は毛が生えているものは何でも好きで、おしめで、お尻が風船のようにふくらんでモタモタ歩いている時から、知らない犬の首っ玉にかじりついていた。

わずかな庭がある家に引っ越した時、柴犬の雑種の子犬を獣医さんがくれた。

茶色のコロコロした子犬で、耳がたれていた。私は、聞きかじりで日本犬は耳がピンとたっていなければならぬと思っていたので、犬を見るたびに「耳は立つかしら」「耳は大丈夫なのか」と心配していた。しかし、耳は立ちあがり、いつでも困惑している様な柴犬と雑種の,あいの子らしい風貌になって来た。

もはや顔を見れば、子犬の顔ではなかったし、体も、ずっと長くなってきた。

しかし、足の長さは,貰ってきたまんまの長さなのである。そして胸がドーンと前にせりだしてきた。足は太めで1㎝も成長しない。

いかにも日本の雑種らしい顔つきをして彼女は土管のような胴体を引きずらんばかりに駆け出すのである。

私は初めてこんな形の犬を見た。

私は柴犬の雑種だと言った獣医に文句をつけたかった。

注射をしに行った時、医者はこともなげに、「あ、これはダックスが、お父さんだ」と嬉しそうに言ったのである。その時は、すでに「桃子」という可愛い名前をつけられて、もはや私達は胴が土管の様であっても困惑した様な顔つきで飛びついて来ようとも、かけがえのない我が家の家族になってしまっていたので、今さら、足を伸ばすわけにはいかないのである。

春が来て、家の前の田んぼが、れんげ畑になった。桃子は顔と背中だけを、れんげから出して、れんげに群がる蜂を追いかけて笑ころげるのである。

犬は笑わないと言うが、桃子は、よだれを出して困った顔つきのまま、笑いころげる。

れんげの中で背中だけ半分見せて走りまわる桃子は立派な柴犬である。私はしばらく見とれている。しかし、れんげ畑から道に上がってくると慣れている私でもギョッとしてしまう。

つづく