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美少女

美少女

私の知り合いの夫婦は夫が67歳、妻が50歳である。子供はいない。その夫が高校のクラス会に行った。それまで彼は同級生に会いたいとも思わず、案内が来ても無視していた。ところが妻の「あまりに姿を見せないと、もうこの世にいないと思われるよ」のひとことが効いたのか「一度くらい行ってみようか」と出掛けていったのである。

すると帰ってくるなり彼は「やっぱり女は金をかけないと駄目だな」と言ったらしい。当時クラスには、学内の殆どの男子が憧れている女子がいた。

目がパッチリとして色白で、まるで、お人形のような美少女で、彼は男はどうでもいいが、彼女は来ているのかと探してみた。幹事に尋ねたら来ているという話だったのに、どうしても見つけられない。するとそばにいた女性の同級生が、部屋の隅にいると教えてくれたものの、その場所にいた女性は、あれがかつての美少女かとビックリするほど老けていた。ぱさぱさの髪の毛を、黒いゴムで一束にまとめているだけで化粧っ気もない。ホテルのレストランの会場を訪ねるのには不釣り合いな、夫の服を借りてきたような普段着姿なのも違和感があった。

彼女の存在を教えてくれた女性が言うには、元美少女は結婚後、ずっと金銭的な苦労が続いているらしく、彼も彼女の姿を見て、その大変さが手に取るように分かった。

一方、会場で目をひいた素敵な女性達は彼が高校生の時には注目すらしていなかった、ごく普通の目立たない人ばかりだった。高校生の時は、つぼみの気配すら無かったのに今になって、見事に大輪の花が開いたといったふうである。話を聞くと彼女達は、自分達には生まれ持った美貌がないので、綺麗になる努力を続けて来たのだと言う。頭のてっぺんからつま先まで、これまでずっとお金をかけてきたと言うのだった。

「ふーん、それじゃあ、お金持ちの男性を見つけなきゃ駄目ってこと?」妻が尋ねた。

「そうじゃなくて、出来る範囲で金をかけろっていうことだよ。旦那も奥さんが身ぎれいにするための出費は認めてあげなきゃ」

夫はかつてそれほどでもなかった女性達が美しくなったのを見て、単純に驚いたらしい。それならばと妻が「それじゃ、貴方はどうしてくれるの?私はどれくらいお金を使っていいの?」っと夫に迫った。

「うーーん、カピパラは5億円使っても吉永小百合にはならんだろ?だからおまえは、何もしなくてもいい」

「なんですと!!私だってカピパラ界の一番の美人になりたいわっ」

同窓会のおかげで、この夫婦はひと月過ぎた今に至るまで冷戦状態が続いている。