「洋式トイレ2」
10歳にして初めて洋式便器に遭遇した時「これは、いかん」不安が渦になって私を襲った。
外国人が洋式便器で用を足せることを常々不思議に思っていた。
和式でする、しゃがみスタイルは普段、滅多にする恰好ではないので条件反射で肛門が反応する。しかし洋式は単に椅子に座っている恰好である。それに慣れてしまったら、椅子に座っているときはいつでも、学校の授業中でも食事中でも、ところかまわず、脱糞してしまうのではないか、という恐怖が私にはあったのだ。
家ならいいが、学校で起こったら、死ぬほど恥ずかしい仕打ちが待っている。
私は卒業するまで脱糞したことを言われ、二つ違いの兄も「おまえの妹、もらしたぞ」といじめられる。兄弟で恥をかかねばならなくなるのだ。
私はそんな事態が起きないように、いつも肛門に神経を集中させていた。
あまりに集中しすぎて便秘になった。なんとか家のトイレで用が足せるようになっても、まだまだ気は許せなかった。椅子に座っている時はいつでも、神経を肛門に集中させて、きゅっと締めていた。
ここで気を許して、肛門がぱっくり開いてしまったら、もう生きていけないと10歳の私は必死だったのだ。人生初の試練だったかもしれない。
緊張のなか、ひと月がたった。
私の肛門は便器に座れば反応するが、椅子に座っていてもこちらの意志を無視して、ぱっくり開かないということが、やっとわかった。
ここで初めて、私は自分の肛門を信頼することが出来たのであった。