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ふんどし爺さん

ふんどし爺さん

近頃、本当に陽が落ちるのが早くなった。夜、外を出歩くのが嫌いな私は、陽が落ちてくると早く家に帰らなければと強迫観念にかられてしまう。

だから冬の夕方になると自然に早足になるのである。

先日も、陽が落ちて肌寒くなったなかを足早に歩いていた。うちの近くにさしかかった時、ふと前を見ると、道路に人の気配がする。

ぶつぶつ何かいう声も聞こえている。近所の人が外に出ているのかもしれないと気にもとめないで、うつむいて歩いていた。

すると視界に男性の裸足が入ってきた。この寒空に裸足。おかしいと思いつつ、だんだん目をあげると、そこには、ふんどし一丁の爺さんが、ぬーっと立っていたのである。

私と目が合っても恥じらうことなく堂々としている。それどころか、「寒くなってきたもんだなぁ」と暗くなって星が出た空を見上げて感動したりしているのだった。

以前、テレビで、年中ふんどし一丁で過ごし、いつも「わっはっは」と大口を開けて笑っているじいさんを見たことがあった。

彼も旗を持って笑っていたそのじいさんの仲間かと思ったが、物静かな気配からすると、どうも違うようである。

普通、薄暗い道路でこういう恰好をしている人は、女の人が近づくと「ひひひ、ねぇちゃん、こんなもの見たことある??」などと言って、お粗末なものを見せたがるものである。ところがじいさんは両足をしっかとふんばって、私には目もくれない。

「この爺さんは、そのテの人ではないらしい」と通りすぎようとしたのだが、私はついつい、爺さんの下半身に目がいってしまった。

つづく