記事詳細

食の好み4

食の好み4

今でも親戚中が集まると私の3歳の頃の武勇伝が必ず話題にのぼる。

丼鉢に山盛りの牡蠣酢と、なまこ酢を平らげた私は、げっぷをしながらも大喜びだったらしい。全く肉やソーセージには手をつけず、牡蠣酢となまこ酢だけを平らげたのだ。

「女の子だというのに、この歳であんなものを十何人分も食べるなんて、こりゃ、とんでもない大酒のみになるぞ」

叔父たちにからかわれて、うちの両親も当惑した。だいたい、牡蠣もなまこも、子供が喜んで食べるようなものではない。例えば牡蠣のグラタンのように、食べやすいようにアレンジしてあるのなら何だが、牡蠣酢、なまこ酢なんて一番、子供が嫌がるような食べ物である。

本当に大酒のみになるんじゃないかと両親は心配していたが、実は、その通りになってしまった(^◇^)

今でも相変わらず牡蠣も、なまこも大好きなところを見ると、子供の頃の味覚は、そうそう変わらないのではないかと思える。

誰に食べろと言われたわけでもないのに、3歳の子供が前にある食べ物に目をとめた。それは肉でもなくソーセージでもなく、牡蠣やなまこだった。

おそるおそる口にしたら、それがとてもおいしかった。やはり、これが生まれ持った嗜好がなせるものだと思えてならない。

この話を煮物嫌いの彼にしたら「そんな妙な子供は、貴方くらいだよ」と言われた。彼はそのテの生ものも苦手で「牡蠣酢となまこ酢が、今まで食べたなかで一番のゲテモノと言うのならわかるけど、3歳でそんなものが好きなのは、どう考えても変だ」と言い張る。その上「人がゲテモノだと思っているものも喜んでパクパク食べてるのでは?」などと呆れかえった顔をされた。

彼の40数年の人生の中で一番のゲテモノは、かの、ブリのあら煮だったそうである。

一方、私は羊の脳味噌である。

それを聞いた途端、彼は「やっぱり~」という顔をして、私の傍から離れ「もう、あっちに行ってくれ」と言わんばかりの嫌そうな顔つきで、私が悪食の大家であるかの如く罵った。

つづく