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健忘症

健忘症

母が中年と言われる年代にさしかかって、物忘れが激しくなった時、「何と情けない」と小馬鹿にした覚えがある。あまりに娘にバカにされるので母親も怒ってしまい、よく親子喧嘩をしたものだ。

しかし、最近では自分の物忘れのひどさに我ながら呆れるほどになってしまった。

昨日もトンカツを作ろうとしていた時、息子に「パン粉」を取ってっと言いたかったのに「そこの・・・てんぷら粉じゃなくて??なんだっけ??」っと言うありさまで思いっきり笑われた。

かつて私は何よりも記憶力の良さが自慢だった。一度会った人の名前は当たり前だけれど、電話番号など名刺に書かれていることは全て暗記していて「凄いね」などと言われると「ふっふっふ」と得意になっていた。まるで歩く電子手帳のような頭脳だったのである。

ところが最近は、あの電子手帳はどこへいったと言いたくなるような醜態ばかりさらしている。

先日も駅周辺でバッタリとある男性にあった。

彼とは確かに会った事がある。お昼ご飯を一緒に食べて、それから仕事のうち合わせまでした覚えはある。化粧品メーカーの人には間違いないのだけれど、名前が出てこない。私の記憶からズボッと抜け落ちていた。

「お久しぶりですね~5年くらい前に、お会いしたっきりですよね」と笑いながらも、顔は引きつっていた。頭の中は「この人誰だっけ?」という思いが充満しているものの、記憶の糸はぶっつん切れたまんま。この事を相手に悟られまいと和やかに再会の挨拶をかわしながら焦りまくった。

この時、初めて脳味噌に大穴があいたような気がしたのである。

それからというもの、脳味噌は大穴だらけで話している途中で相手の名前が山田さんか山下さんか、ふっとわからなくなることがある。

相手は自分の名前が忘れ去られているのも知らずにニコニコしている。

人生80年と言うのに後、20年を、この大穴だらけで過ごさなければならないのかと思うと、ゾッとする。