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水着談義

水着談義

30代の頃、突然、沖縄旅行が決定し、水着を買いに行った時の話を。

幹事をしてくれる女性に、おそるおそる「やっぱり水着もいるのかなぁ」と尋ねたら「当ったり前じゃない、水着を持っていかなくてどうすんのよ」と呆れられた。私は高校生の時以来、水着姿になったことがない。それも友達と海に行った時だけで学校のプールの授業の時は体重が60キロありながら「病弱なもので」と教師に言って、見学にまわっていた。だから私はスクール水着しか着たことがないのである。

無地の競泳用の水着でも買うか。ナンパされに行くわけじゃないんだから水着であれば何でもいいわさ・・・と思い大手のスポーツ店に行った。

丁度、水着コーナーが大々的に設けられたところで沢山の店員さんがいた。

私は自分に似ているコロコロ体型の店員さんに「ハイレッグじゃなくて無地の水着が欲しいんですけど」と声をかけた。こういう場合、背が高くてスタイルがいい店員さんにアドバイスを受けても、素直に聞くことが出来ない。

「そんなこと言ったって、どうせあなたには私の悩みなんか、わかりっこないわよ」と言いたくなるのだ。

声をかけた若い店員さんは、とても感じがよく、無地の水着が置いてある場所に連れて行ってくれた。

「私、水着を買うのは20年ぶりなんです」と言うと彼女は「えーーー!!」とビックリしながら「どこかに行かれるのですか?」と聞いてきた。

「ええ、沖縄に・・・」と言った途端、彼女は目を丸くした。

「沖縄ぁ?沖縄に行くのに、この水着を持っていっちゃいけません!!いけません!いけません。逆に悪目立ちします。沖縄にはだめです!!」

ぐいぐいと私の手を引っ張って、華やかな花柄の水着が並んでいる所に連れて行った。「せめてこのくらい着て下さいよ」彼女は紺地に白とグレーで花が描かれた水着を見せた。肩が丸出しになっていて、本体についている細い紐を首にひっかけて着用するタイプだ。胸には私が大嫌いなリボンがついている。

「リボンをほどいて首に結べば、どんなに泳いでも大丈夫。絶対に水着は落ちてきません」「あのーー、これハイレグじゃないですよね」念を押すと彼女は首を縦に振った。「試着しないとわからないので、どんどん着てみてくださいね」

彼女は私を試着室に押し込んだ。「いちおう、これもどうぞ」カーテンの隙間から、何の飾りもないワンピース水着が差し入れられた。まず、これを着てみた。

「どっひゃーー」であった。

下腹の出具合、尻のタレ具合、腕のたるみなど、もう、もろわかりである。

「ひーっ」

私は前面の鏡に映る、小柄な、トドの姿から目をそらしつつ、ぷりぷり水着に着替えた。

「おおっ」

これは発見であった。さっきの水着では世間に露呈されていた下腹が、この水着を着ると目立たない。様子を見にきた店員さんに、そう伝えると「そうなんです!」と胸を張り、私の水着姿を見て、体型に合いそうなものを次々に持ってきてくれた。

つづく