憧れのO君が卒業してしまい、女の子達は皆、胸にぽっかりと穴があいたようだった。同じクラスの男の子、二十二人をもってしても、彼ひとりの魅力にはかなわなかったのだ。
彼が女の子と付き合うということを想像するだけでもいてもたっても居られなかった。女性ではなく男性に走ってくれたほうがまだマシだった。
それから十年ほどたって私は電車の中で背の高い1人の男性に目がとまった。
じっと見ていると彼がこちらを向いた。ぱっちりした二重の目、すっと伸びた鼻、形のいい口もと、それは紛れもなO君であった。
「あっ、こんなところで・・・」と懐かしくなったとたん、私は愕然とした。
まだ20代の半ばだというのに、彼の頭には殆ど毛がなかったからだ。
これで袈裟でも着ていたら、気高いお坊さんに見えただろうにスーツ姿のせいで妙な違和感があった。
淋しい頭の下にある顔は昔のままだったが、かつては女の子の視線を一身に受けて、輝くばかりだったのに電車の中の彼は、やや猫背気味で、どことなくおどおどしているのが私には悲しかった。
そのすぐあと、当時のクラス会があった。
Oさんのせいで女の子たちに鼻もひっかけてもらえなかった彼らは、自信を漂わせ、元気はつらつとしていた。
私は昔の面影がまだ残っている彼らの姿を眺めながら、神さまって公平だなと、つくづく思ってしまった。